yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百八十九話 泰然と事態を見守る -【島根篇】細菌学者 秦佐八郎-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百八十九話泰然と事態を見守る

島根県益田市出身の、世界的な細菌学者がいます。
秦佐八郎(はた・さはちろう)。
当時、不治の病だった梅毒の特効薬「サルバルサン」を、ドイツのパウル・エーリッヒと共に開発。
世界中の患者の命を救ったレジェンドです。
受賞には至りませんでしたが、1911年から3年連続でノーベル賞にもノミネートされ、我が国だけでなく、世界の医学の発展に貢献しました。
秦が生まれた島根県都茂村には、彼の記念館が建てられています。
記念館には、恩師・北里柴三郎(きたさと・しばさぶろう)や、友人・野口英世(のぐち・ひでよ)の写真や、帝国学士院会員に選ばれたときに着用した大礼服などが飾られ、サルバルサンの標本など、医学的に貴重な文献も展示されています。
20世紀を迎えたばかりの頃。
産業革命に代表される技術革新は、世界を席巻し、人類は今まで経験しなかった未曾有の発展を経験しますが、ただ一点、頭を悩ませた問題がありました。
それは、伝染病・感染症。
たとえば、ペスト、コレラ、結核、それに、梅毒。
どんなに便利で快適な世の中になっても、感染の恐怖は、人々の心までむしばんでいったのです。
感染する細菌だけを攻撃し、人体には危害を加えない薬品。
それこそが、近代医学の最大課題になったのです。
島根のとある村に生まれた秦が、いかにしてその課題に果敢に取り組む細菌学者になったのか。
そこには、彼の持って生まれたある性格が、大いに影響していると思われます。
それは、何事も泰然と見守る癖。
島根から岡山の学校に行ったとき、岡山から東京の大学に進学したとき、日本からドイツに留学したとき。
彼は、いつも思っていました。
「ここで一番になったからといって、もっと広い世界があるんだ。どこに行っても、井の中の蛙であることに変わりはない」
そんな冷静な目線があったからこそ、彼は偉業を成し遂げたのです。
島根県出身の細菌学者・秦佐八郎が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

梅毒の特効薬「サルバンサン」を開発した細菌学者・秦佐八郎は、1873年、明治6年3月23日、現在の島根県益田市に生まれた。
石見の国、都茂村、海があり山があり、14人兄弟の8番目だった秦は、自然児としてのびのび育つ。
家は、裕福な農家。酒もつくっていた。
水がよく、米もお酒も高値で取引された。
秦は、物心ついた頃から、ひとつ上の兄とつるみ、わんぱく三昧の日々を送る。
喧嘩に、いたずら。
父に怒鳴られ、母には蔵に閉じ込められた。
それでも、蔵の中で、兄と次の悪だくみの相談をする。
秦少年の原動力は、好奇心。
知らないことがあると、知るまで大人に質問した。
わからないことがあると、夕ご飯を忘れて観察。
この世の中はわからないことだらけで、毎日ワクワクして過ごした。
やんちゃだったが、勉強も一生懸命だった。
学問も遊びも同じ。
好奇心が自分を引っ張ってくれる。
気づけば、クラスどころか、学校で一番の成績になっていた。
15歳になったある日、父に呼ばれる。
「佐八郎、おまえ、どうかな、養子にいかないか?」

世界的な細菌学者・秦佐八郎は、15歳のとき、いきなり父に養子をすすめられた。
当時、仮に父に相談されたとしても、それはすでに決定事項。
拒否することは許されない。
11代続く医学者の家系の親戚が、跡取りを失い、佐八郎を欲しいと願い出た。
佐八郎の成績は、けた違い。
都茂村では、神童とあがめられた。
しかし、彼はいっこうに自慢するふうでもない。
学問を知れば知るほど、上には上がいることを察知していた。
養子に行く家は、岡山にあった。
都茂村からすれば、岡山はびっくりするくらいの都会。
でも、臆することはなかった。
佐八郎が唯一苦手なのが、語学だった。
英語、ドイツ語。
言葉に意味があるのだろうかと思う。
思っていることと話す言葉には、大きく乖離(かいり)がある。
だから、言葉を信じていなかった。
自己主張を言葉でするなど、論外。
結果が全てだと思っていた。

ただ、新しい家の父に言われる。
「医学を学ぶには、英語とドイツ語は、はずせない。
佐八郎君、君には期待しているんだ。ぜひ、岡山第三高等学校医学部に入ってくれたまえ!」
無事に入学を果たした佐八郎は、クラスメートのふるまいに唖然とする。
山陽・山陰地域において、確かに岡山三高は超エリート。
でも、彼らの選民意識に、げんなりする。
「どうしてみんな、いばったり、偉そうにしたりできるんだろう。
学問の基本は、自分がなにものでもないことに気づくことなのに」

世界初の抗生物質をつくった細菌学者・秦佐八郎は、岡山第三高等学校、現在の岡山大学医学部時代、発言の少ない、自己主張のない学生だった。
でも、成績はいつもトップクラス。
同級生たちは「どうしてあいつは、自分たちの輪に入らないんだ?」と扱いづらい存在として、疎んじていた。
秦は、孤高のひと。
誰ともつるまない。
自慢や傲慢とは無縁。
あるテストのとき、指導教官が、秦の机の傍で立ち尽くす。
答案用紙をのぞきこむ。
クラスメートは、「ああ、きっとカンニングがばれたんだ」と思った。
「秦は、ズルをして成績がいいから、自慢しないんだ」と考えた。
後日、指導教官は言った。
「私が、秦君の席で立ち止まった理由ですか?
それはですねえ、感動したんですよ。
彼の解答は、すごかった。
私も知らないドイツの文献を読み解き、完璧な答えを書いていたんです」
その日以来、秦のことを悪く言うひとは、いなくなった。
秦佐八郎は、いつも忘れない。
自分など、ちっぽけな存在であることを。
都茂村で経験した、野山に生きる暮らし。
草や生き物の生態、移ろう景色、解明できないことがあふれているこの世界で、人間だけが傲慢になっていいはずがない。
そのためには、いつも、泰然と世界を見守るべきである。
謙虚な姿勢が、偉業を生んだ。

【ON AIR LIST】
MEDICINE FOR MY SOUL / Juan Luis Guerra Feat.Taboo of The Black Eyed Peas
OPEN MIND / Jack Johnson
なにもない Love Song / 浜田真理子

★今回の撮影は、「秦記念館」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
営業時間など、詳しくは島根県益田市観光ガイドの公式HPよりご確認ください。
益田市観光ガイド HP
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとアボカドのわさびじょうゆ

今回は、島根県益田市で盛んに栽培されている、わさびを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとアボカドのわさびじょうゆ
カロリー
217kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 大さじ1
  • アボカド
  • 1個
  • レモン果汁
  • 大さじ1
  • クリームチーズ
  • 40g
  • 【A】しょう油
  • 小さじ2
  • 【A】みりん
  • 小さじ1
  • 【A】わさび
  • 小さじ1/2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。フライパンに入れ、酒をふってフタをし、弱火で4分ほど蒸す。
  • 2.
  • アボカドは食べやすく切り、レモン汁をかける。クリームチーズは1cm角に切る。
  • 3.
  • 霜降りひらたけ、(2)を軽く和え器に盛りつける。【A】を合わせて回しかける。
  • recipe LIST

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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