MURAKAMI RADIO
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こんばんは、村上春樹です。村上RADIO。今日は恒例の「村上の世間話」をお送りします。これでシリーズ7回目、例によってあまり役に立たないお話をいろいろと持ち出します。


考えてみれば、僕が思いつく話って、だいたい世の中の役に立たないものが多いんです。現在の世界はいろんな深刻な問題をいっぱい抱えていて、そういうことにも知恵を絞らなくてはなぁと、もちろん思うのですが、僕がいくらがんばってもなかなか解決に至らないものばかりなので、この場はまあひとつ、息抜きに……という感じで、お気楽な世間話です。よろしく。

<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」


僕はよく家でパンケーキを焼きます。フライパンでひとりパンケーキを焼きながらいつも思うのですが、パンケーキとホットケーキの違いっていったい何なんでしょうね? パンケーキの素を買ってきてそれを焼いたらパンケーキで、ホットケーキの素を買ってきて焼いたらそれはホットケーキになるのか、ただそれだけのことなのか、そのへんのことが僕にはよくわかりません。いろんな人に「ホットケーキとパンケーキ、どこに違いがあるんだろう」と質問しても、それぞれ違う答えが返ってきます。もし正解をご存じの方がおられたら教えてください。大した問題じゃないし、考え出すと夜も眠れないというほどのことでもないのですが、やっぱり気になります。

英語に「ホットケーキみたいに売れる」という慣用表現があります。何かが飛ぶように売れることを意味しています。その本は売れまくっている、というのは「The book is selling like hotcakes」となります。お母さんがフライパンでホットケーキを焼いているそばから、子どもたちがみんなパクパクそれを食べていって、焼くのが追いつかないという忙しい状況ですね。お母さんも大変です。まあ、そんなふうに、ホットケーキみたいに本がどんどん飛ぶように売れてくれると、作家としては言うことないんですけどね。この場合はなぜか「パンケーキのように売れる」じゃなくて、ホットケーキなんです。どうしてかはわかりませんが、とにかく慣用句なので。

The Sidewinder
The Soul Society
Jazz Spectrum Compiled By Keb Darge And Bob Jones
BBE

ちょっと前に用事があってノルウェイに1週間ほど行ってきました。リレハンメルという北のほうにある、わりに小さな町に滞在していたのですが、そこにノルウェイ・パンケーキの専門店がありまして、もちろん入ってみました。ノルウェイのパンケーキってサイズが小さくて、かわいいんです。円形で直径5センチくらい。それが10個から20個くらいきれいに並んで出てきます。
僕はパンケーキ10個と、ブルーベリーとストロベリーの盛り合わせを注文して食べたのですが、これはとても美味しかったです。新鮮なベリーと、焼きたてのパンケーキってすごく合うんですね。まさかマッチングアプリで合わせたわけではないでしょうけど。みなさんもノルウェイに行く機会があったら、ぜひ試してみてください。また食べたいです。リレハンメルはウインタースポーツで有名なところですが、夏だったのでもちろん雪はなくて、高いジャンプ台は緑の夏草に囲まれて、心なしか淋しそうでした。

ソウル・ソサエティが演奏する「The Sidewinder」、リー・モーガンの作曲したジャズ・チューンが、かっこいいダンス・ミュージックに生まれ変わっています。Sidewinder、がらがら蛇のことですね。

Evergreen Tree
Jimmie Rodgers
Sings Folk Songs At Home With Jimmie Rodgers
Collectors' Choice Music

最近本屋さんに行きましたか? 僕は暇があると書店に足を運びます。そして、そこでけっこう時間を潰します。最近は新刊書の書店よりは、古本屋さんに行くことのほうが多いですけどね。懐かしい本に巡り会えるから。このあいだ古本屋さんで、大江健三郎さんの『万延元年のフットボール』の初版本と、小島信夫さんの『アメリカン・スクール』の初版本をそれぞれ200円くらいで買ってきました。まあ、あまりきれいな状態の本じゃないですけど、いちおう初版なので押さえておこうかと。値段もめちゃめちゃ安いし。

実を言いますと、僕は『万延元年のフットボール』、まだ読み通したことないんです。良い機会だからがんばって読まなくちゃ。しかし、そういえば三島由紀夫の『金閣寺』も、太宰治の『斜陽』も、志賀直哉の『暗夜行路』もまだ読んでないしなあ。川端康成もほとんど読んでないし、夏目漱石の『こころ』は途中で放棄したし……もう45年も小説家をやっていて、そんな怠惰なことでいいんでしょうかね? いいような気もするし、よくないような気もするし……。でもまあ、しょうがないですよね。限りある人生だし、何もかも満遍(まんべん)なくカバーすることはできません。でもそのかわり、好きな本は何度も何度も読み返していますよ。

ジミー・ロジャーズの歌う『エバーグリーン・ツリー』を聴いてください。この歌、日本ではクリフ・リチャード&ザ・シャドウズの盤でそこそこヒットしましたが、ファースト・リリースはこちらみたいですね。ジミー・ロジャーズ、中学生の頃よく聴きました。懐かしいです。

Next Year's Rock & Roll
Atlanta Rhythm Section
Underdog/The Boys From Doraville
BGO Records

日本の書店に行って、よく不思議に思うのですが、「男性作家」と「女性作家」のコーナーに分かれている書店がありますよね。あれ、どうしてでしょうね? 外国では、僕がこれまで見た限り、ほとんどの書店でそういう区別はなされていません。男女一緒くたにラストネームのアルファベット順に並んでいます。だから僕の本はだいたいの場合「アリス・マンロー」さんのあとに位置しています。光栄なことですね。


日本においては、女性読者は主に女性作家の書いた本を読むし、男性読者は主に男性作家の書いた本を読む、そういう風潮があるので、書棚も男女に分かれていた方が本を探しやすいから、ということなのでしょうか? でもそういうのって、僕は思うんだけど、ちょっと傾向が偏りすぎていて、心淋しいですよね。男性読者も女性作家のものを手に取り、女性読者も男性作家のものを手に取り、そうやってお互いの意識や感覚を理解し合うことで、世の中は比較的まったり進んでくのではないかと思います。

僕の場合、僕の書いた本の読者って、だいたい男女半々なんです。出版社によってはそういう調査をするのですが、どの調査を見てもだいたい半々です。これは外国でもまったく同じで、これまでいろんな国でサイン会みたいなのをやりましたが、やって来る読者は本当にきれいに男女半々です。そして年齢的にも、若い人から高齢の方までいちおう満遍(まんべん)なく揃っています。これは僕にとっては何より嬉しいことです。ああ、僕は世の中とこうしてムラなく繋がっているんだなあと思います。

というわけで、僕の本が日本の書店の「男性作家」の棚に並んでいると、男女別学の教室に入れられたみたいで、なんか楽しくないです。でも、そんなことを気にするのは僕くらいなのでしょうかね。

アトランタ・リズム・セクションが歌います。「Next Year's Rock & Roll」、このギターの刻みが個人的になんか好きなんです。雰囲気がこのバンドの前身の「クラシックス・フォー」譲りっていうかね。

You Didn't Have To Be So Nice
Astrud Gilberto
Beach Samba
Verve Records

フランソワ・トリュフォーの映画に「恋愛日記」というのがあるんですが、ご覧になったことありますか? とてもユニークで面白い映画です。女性の脚に異様に惹かれる男の話で、街を歩いていて、フレア・スカートが風に揺れて女性の美しい脚がちらりと見えると、彼はあっという間に恋に落ちてしまいます。そして熱く口説きまくる。トリュフォーの自伝的色彩の濃い話だと言われていますけど。
この映画は、そのスカートの揺れ方、脚の見え方の描写、撮影が実にうまいんです。この映画を観て以来僕は、パリの女性のスカートの着こなし方ってほんとに素敵だなと思うようになりました。そして実際にパリに行って、確かにそうだなと自分の目で確認しました。恋にまでは落ちませんでしたけど。

しかし、この間久しぶりにパリを訪れて、街に出てびっくりしたのですが、最近のパリの女性ってほとんどスカートをはいていないんですね。だいたいみんなパンツスタイルです。いったいパリの女性に何が起こったんだろうと思わず首をひねってしまいました。
フランスの人に「どうしてフランスの女性はスカートをはかなくなったんでしょう」と聞くと、「性犯罪を用心しているんじゃないか」とか、「たぶんフェミニズムが関係しているんだろう」とか言われました。これという定説はないみたいですが。でもスカートが風にひらりと揺れないパリの街って、なんとなく淋しいですね。トリュフォーさんが生きていたらきっと残念がることでしょう。
日本でも盗撮なんかが増えてきて、これじゃそのうちにスカートをはく女性が街から消えてしまうんじゃないかと、僕なんかはひそかに危惧しております。そういうの、やめましょうね、ほんとに。

アストラッド・ジルベルトの「ママと歌おう」を聴いてください。曲はラヴィン・スプーンフルのヒット・ソング「You Didn't Have To Be So Nice」です。日本でシングルカットされたとき、こういうタイトルになりました。

パパと踊ろうよ
アンドレ・クラヴォー
パパと踊ろうよ / わたしの天国
Angel Records

さて、話はがらりと変わりますがーー話ががらりと変わるのがこのシリーズの特色なんですけどーー皆さんは警察官に職務質問って受けた経験はありますか? 僕はもっと若い頃、街を歩いていると、しばしば警察官に呼び止められました。当時の僕はきっと人相風体がかなりあやしかったんでしょうね。髪も長かったし、身なりもよれていたし。最近はさすがに歳を取って、人生がそれなりに落ち着いてきたせいか、外見も穏やかになり、おまわりさんに目をつけられることもなくなって、うーん、ちょっと淋しいかもな……というようなことはありません。そんなの、ないほうがもちろん楽でいいです。

職務質問では、だいたい「かばんの中身を見せていただけませんか」と言われます。爆弾とか隠しているんじゃないか、と。あるとき、飼っていた猫をかばんに入れて運んでいました。猫が怪我をしたので、近所の獣医さんのところに持っていこうとしていました。で、「かばんの中は猫ですけど」と言うと、警官は怪訝(けげん)な顔をして「ちょっと見せてください」と言うので、「いいですよ」とファスナーを開けたら、中から猫がニャアと鳴いて顔を出して、警官も「あ、猫だ」と納得してくれました。だから最初から「猫だ」って言ってるんだけどね。


さきほどは「ママと歌おう」をかけたので、今度は「パパと踊ろうよ」をいきます。親子ものの連続ですね。まあ、とくに意味はないんですけど……。娘さんとワルツを踊るのはアンドレ・クラヴォーです。

Only The Strong Survive
Bruce Springsteen
Only The Strong Survive
Columbia

職務質問の話の続きですが、あるときは古本屋さんに本をまとめて売りに行こうと思って、鞄に本を入れて道を歩いていたのですが、若い警官に呼び止められて、例によって「中を見せてください」と言われて、そのときは「いやだ。見せたくない」とはっきり言いました。何度も呼び止められていい加減うんざりしていたし、そうしなくてはならない正当な根拠が示されない限り、市民には所持品検査を拒否する法的権利がありますから。そうしたらその警官は少し迷ってから「じゃあ、ちょっと重さだけ量らせてもらっていいですか? 中身は見ませんから」と言うので、「ああ、いいですよ。重さを量るだけなら」と僕は言いました。
その警官は本を詰めたかばんを手に持って、真剣な顔つきでしばらくじっとその重さを量っていました。そして結局「わかりました。けっこうです」ということになったんだけど、しかし本の重さと、たとえば爆弾の重さの違いって、手に持っただけでわかるんでしょうかね? 本もかなり重かったと思うんだけど。今でもそのへんが疑問として残っています。長く生きているといろんなことがあります。

ブルース・スプリングスティーンが「Only The Strong Survive」を歌います。ジェリー・バトラーの1968年のヒット・ソングですね。さすがボス、思い切り素敵なカバーです。

You Gave Me A Mountain
Don McLean
Don McLean Sings Marty Robbins
relentless nashville

また話はがらりと変わりますが、ギリシャにハルキ島という島があります。そこはいったいどんな島なんだろうと思って、好奇心で実際に足を運んでみました。暇だったんですね。その経緯はたしか『遠い太鼓』という旅行記に書いたので、詳しいことは省きますが、なかなかのんびりとした鄙(ひな)びた素敵な島でした。ほんとになにもないところで。
それからこのあいだ初めて知ったのですが、この地上にかつてハルキゲニアという生き物が存在していたんです。ビル・ブライソンの書いた『人類が知っていることすべての短い歴史』という本に出ていました。これはとっても面白い本なので、もしお暇だったら読んでみてください。暇つぶしには最適です。
ハルキゲニアというのは、カンブリア紀に登場したへんてこな、虫みたいな生き物の名前です。カンブリア紀はだいたい4億年から5億年くらい前のことですから、気候が温暖化したこの時期には、ものすごくたくさんの新しい生物が地球に登場しました。その中には「なんでこんなへんてこなものが」というものが数多くありまして、そういう連中はあまりにもへんてこすぎて、試作品みたいな感じですぐ淘汰されていなくなってしまったのですが、少しは化石になって残っています。そういうもののひとつに「ハルキゲニア」がいます。ハルキゲニアは体長1センチから5センチ、竹馬のような10対のすごく長い脚と、7対のとがった棘(とげ)を持っています。絵で見ると結構気味の悪い生き物です。こんなけったいなやつにハルキって名前がついちゃうのかなあ……と感心してしまいます。

ハルキというのは英語でいう「hallucination(幻覚)」の語源で、ハルキゲニアは「幻覚から産み出されたような奇怪な生き物」という意味になります。知っていてもあまり役に立ちそうにない知識ですが。

ドン・マクリーンが、カントリー歌手マーティー・ロビンズの作曲した「You Gave Me A Mountain」を歌います。あなたは山のように大きなものをくれた。素晴らしい曲なのですが、ロビンズ自身の歌ったレコードはほとんど注目されなくて、後にフランキー・レインとエルヴィス・プレスリーのカバーしたバージョンがヒットしました。ロビンズさん、気の毒です。

Days Of Wine And Roses
Pat Martino
Comin' & Goin'
32 Jazz

名前の話の続きですが、村上春樹というのは僕の本名です。親につけられた名前です。まさか職業作家になるとは思ってもみなかったので、ペンネームのことは考えもしませんでした。本名で原稿を応募して、それが文芸誌の新人賞をとって、わけのわからないうちにそのまま作家になってしまいました。今となっては後悔しています。ペンネームにしときゃよかったなあ、と。
正直言って、本名でものを書いていると、いろいろ困ることが多いんですよね。病院なんかで名前で呼ばれたりすると、まわりの人はみんなこっちをじろっと見るしね。クレジットカードにも名前がついているから、場合によってはちょっと使いにくいなあ、というときがあるし。なんか人前で裸にされた、みたいな感じがすることもあります。
でも、じゃあ村上春樹を捨てて、どんなペンネームにするかっていうと、それがなかなか思い浮かばないんですよね。猫に名前をつけるのは至難の業(わざ)だとT・S・エリオットは言ってますが、自分にペンネームをつけるのもそれに劣らず難しいです。ヒトのラジオネームだと、「堕落したラクダ」とか「牛に引かれていきなりステーキ」だとか適当なものが気軽につけられるんだけど、自分のペンネームは難しいです。だからまだしばらくは「村上春樹」でやります。『ノルウェイの森』の著者名がある日突然「幕の内弥太郎」に変わった、なんてことはまず起こりませんので、ご安心ください。

ちょっと前に免許証の更新に行って、出来上がりを待っていたのですが、しばらくしたら「ムラカミハルキさん」と呼ばれて、カウンターに取りにいったら窓口の女性に「ムラカミハルキさん、あら、同姓同名なんですね」と言われました。「ええ、そうなんですよ。ほんとに迷惑で……」とか言って逃げてきました。そういう楽しいこともたまにはありますけど。

パット・マルティーノというジャズ・ギタリストをご存じですか? 彼は1944年生まれで、15歳からプロとして活動を始め、1960年代から70年代にかけて、若手ギタリストのホープとして、ジャズの第一線で活躍しましたが、1976年に脳動脈瘤で倒れ、手術を受けてなんとか一命は取り留めたのですが、ずいぶん難しい手術だったので、記憶がそっくり失われてしまいました。回復したものの、頭が文字通り空っぽになってしまったんです。ギターの弾き方もまったく思い出せないし、過去の自分がどんな演奏をしていたかも覚えていません。

でも、長年にわたる我慢強いリハビリを経て、新しくゼロからギターを学び直し、1980年代半ばにはジャズ・ギタリストとして再起しました。僕も再起後の彼の演奏を生で聴きましたが、そりゃ素晴らしかったですよ。奇跡のギタリストと呼ばれていました。4年前に亡くなりましたが。


そのパット・マルティーノの演奏する「酒とバラの日々」を聴いてください。これは彼が病に倒れる寸前、1976年の録音です。バックはギル・ゴールドスタインのピアノ、リチャード・デイヴィスのベース、ビリー・ハートのドラムズという豪華なメンバーです。

Lady Jane
Joe Pass
The Stone Jazz
World Pacific Records
今日のクロージング音楽は、ジャズ・ギタリストのジョー・パスが演奏する「Lady Jane」。ローリング・ストーンズのヒット曲ですね。『The Stone Jazz』というというストーンズの曲ばかり集めたアルバムに入っています。ジョー・パスとストーンズ、ミスマッチみたいに思えますが、ボブ・フローレンスのしゃれたアレンジを得て、しっかり楽しめる音楽になっています。

またパンケーキの話になりますけど、パンケーキがこんがりときれいに焼きあがったときって、ものすごくハッピーな気持ちになれますよね。お皿に盛って食卓に置いて、食べちゃうのが惜しくなるほどです。そういうのってまさに「小確幸(しょうかっこう)」、小さいけど確かな幸せです。そんなことが世界平和の役に僅かでも立つかどうか、まあ、そこまでは僕にもわかりませんが。
ところで、うちには僕のパンケーキとオムレツ専用のフライパンがあって、これは他の用途には使ってはいけないことになっております。
今回は本のプレゼントがあります。今年6月に発売したトルーマン・カポーティの『草の竪琴(たてごと)』を5名の方に差し上げます。サイン入りです。これは僕が昔からとても好きな本で、心を込めて翻訳しました。番組の感想とか村上に相談したいことなんかを書いて、どうぞ応募してください。
 

さて、今日の言葉はスコット・フィッツジェラルドさんの、作家であることについての見解です。

「名をなした作家というのは、ロマンチックな職業であるように私には思えた。映画スターほど有名にはなれないが、おそらくもっと長持ちするだろう。政治的、宗教的なリーダーのような権力はふるえないが、気の向くまま自由に生きていける。もちろんどんな仕事であろうと、人の不満の種が尽きることはないだろうが、少なくとも私に関して言えば、作家以外の職業につけばよかったと思ったことは一度もない」


はい、僕もフィッツジェラルドさんとだいたい同意見です。僕が作家になってよかったとつくづく思うのは、まず通勤がないこと、そして会議に出なくていいことです。それだけで人生のロスがかなり減りますものね。

それではまた来月。

【参考】
村上春樹著『遠い太鼓』(講談社)
ビル・ブライソン著 、楡井浩一訳『人類が知っていることすべての短い歴史(上・下)』新潮文庫
スコット・F・フィッツジェラルド著 村上春樹訳『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』 (中央公論新社)
トルーマン・カポーティ著、村上春樹訳『草の竪琴』(新潮社)

スタッフ後記

スタッフ後記

毎回楽しみにしてくださっている方も多い「世間話」シリーズ。第7回目となった今回も幸福な時間でした!それに選曲も楽しいですね。「ママと歌おう」と「パパと踊ろうよ」をペアで選曲できるなんてさすが音楽マニアの村上春樹さん!そして最後の曲「酒とバラの日々」。記憶喪失でギターの弾き方を忘れたのに、またプロギタリストとして復活できるなんて驚きです。ちなみにこの曲がかかる前のBGMは「奇跡のギタリスト」パット・マルティーノの復活後の演奏です。天性の才能を持つ人っているんですね。 次回の世間話も、どうぞお楽しみに!(「村上RADIO」スタジオ・チーム)

村上春樹(むらかみ・はるき)プロフィール

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『街とその不確かな壁』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。